Tax Circular2
●生前贈与と贈与税・相続税について
(問)私は80歳になりましたが、多額の財産を有しており、相続税が心配になってきました。相続税対策として、生前贈与が有効と聞きましたが、税金はどうなるのでしょうか。
(答)
税務上、生前贈与の方法には、暦年贈与課税と相続税時精算課税があります。以下、説明します。
1.暦年贈与課税
特段の手続きをしなければ、暦年贈与課税になります。年間110万円の基礎控除があるので、110万円までの贈与には税金がかかりません。
しかしながら、贈与税の税率は、高額です。高額な贈与税が課されるので、基礎控除以上の多額の贈与については向いていません。
また、贈与税は、受贈者課税です。つまり、贈与を受け取った者が納税します。年間110万円の基礎控除も、贈与の受け取った者ごとにカウントします。この点は、子や孫が多くいる場合には、相続税の節税に有利に働きます。仮に、子や孫が20人いたとすると、20人?110万円=2200万円/年の生前贈与が贈与税課税なくできることになります。5年も経てば、1億円以上の相続財産の減少が可能です。
一方で、相続又は遺贈により財産を取得した方が、その相続開始前7年以内に被相続人から贈与により取得した財産がある場合には、その取得した財産の贈与時の価額を相続財産に加算されることに注意すべきです。つまり、短期間の相続税対策には向いていません。しかし、これは「相続又は遺贈により財産を取得した方」のみが対象なので、法定相続人でない孫への生前贈与は、通常対象外になります。
2.相続時精算課税
相続時精算課税制度は、贈与時の贈与税の計算において、2500万円までの控除をする制度です。そして、何年前に贈与したとしても、贈与したものは、相続税の計算において必ず加算されます。なお、2024年の税制改正で、精算贈与の基礎控除が新設され、上述の2500万円とは別に、年110万円までの基礎控除が認められ、贈与税はかからず、相続税の足し戻しの対象から外せるようになりました。
この制度は、原則として60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などに対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。この制度を選択する場合には、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間に一定の書類を添付した「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要があります。
しかし、相続時精算課税制度は、相続税の節税には一切なりません。一方で、贈与時の税金負担が緩和されているため、多額の財産を生前贈与する必要がある場合に、利用されるケースが多いです。
気を付けるべき点は、相続時において、贈与時の価値で相続税が計算されるため、贈与後に価値が下がった場合でも、贈与時の価値に基づいて課税されるリスクがあります。また、一度選択すると撤回できず、その後の贈与は、相続時精算課税のみの適用になるため、制度の適用にあたっては、慎重な判断が必要です。
なお、相続時精算課税制度のもとで、贈与で取得した土地又は建物が災害で被害を受けた場合、被害相当額を相続税の課税対象額から減額できます。最近、自然災害が多いので、この点は留意しておいた方がいいでしょう。
これらの点を踏まえ、自身の財産状況や相続計画に適した贈与方法を選択することが重要です。